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福島地方裁判所相馬支部 昭和53年(ワ)57号 判決 1980年6月24日

主文

一  被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、金七七万円及びこれに対する昭和五一年三月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し金一一万四四五四円及びこれに対する昭和五一年三月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告(反訴原告)の原告(反訴被告)に対するその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、本訴、反訴ともにこれを五分し、その一を原告(反訴被告)の、その余を被告(反訴原告)の各負担とする。

五  この判決は、原告(反訴被告)、被告(反訴原告)勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本訴

(一)  請求趣旨

(1) 被告(反訴原告、以下被告という)は、原告(反訴被告、以下原告という)に対し金七七万円及びこれに対する昭和五一年三月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(2) 訴訟費用は被告の負担とする。

(3) 仮執行の宣言

(二)  請求の趣旨に対する答弁

(1) 原告の請求を棄却する。

(2) 訴訟費用は原告の負担とする。

二  反訴

(一)  請求の趣旨

(1) 原告は、被告に対し金六二万六七五七円及びこれに対する昭和五一年三月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(2) 訴訟費用は原告の負担とする。

(3) 仮執行の宣言

(二)  請求の趣旨に対する答弁

(1) 被告の請求を棄却する。

(2) 訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張(本訴)

一  原告の請求原因

(一)  被告は、昭和五一年二月二九日、福島県原町市雫字上江所在のドライブイン「どさんこ」付近国道六号線の路上で、酒に酔つて自動車(トヨタカリーナ)を運転進行中、前方不注視の過失により、原告所有の自動車(五一年型トヨタコロナ)に追突させて同車両を大破させた。

(二)  原告は、右交通事故により、自動車の購入代金一一二万円から破損した原告車の引取価額三五万円を差引いた七七万円の損害を被つた。

(三)  よつて、原告は、被告に対し七七万円及びこれに対する昭和五一年三月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告の答弁及び抗弁

(一)  請求原因第一項の日時、場所で、原・被告が自動車事故を起した事実は認めるが、その原因、事故の態様、被害については否認する。

(二)  請求原因第二項の事実は否認する。原告車の被害は左側ドア、車体の凹損で、三五万円程度の修理費で完全に修復できたのに新車を購入したものであり、被告にその損害補償の義務はない。

(三)  本件事故は、被告が自動車を運転して原町市方面から小高町方面に向つて時速約四五キロメートルで走行中、対向して来た原告車が国道東側の「どさんこラーメン店」に入るため、急に右折して被告車の進路を妨害したため発生したもので、右折車による直進車の進路妨害としてセンターラインをこえた原告車に一〇〇パーセントの過失を認めるべき事案である。

第三当事者の主張(反訴)

一  被告の請求原因

(一)  (事故の発生)

被告が昭和五一年二月二九日、自動車を運転して前示「ドライブインどさんこ」付近の国道六号線上を原町市方面から小高町方面に向つて時速約四五キロメートルで走行中、対向して来た原告運転の自動車が国道東側の右「どさんこ」に入ろうとして急に右折して被告の進路を妨害したため、被告所有の自動車(福島五五ほ二八四八号)に衝突し、被告に損害を与えた。

(二)  (責任原因)

(1) 本件事故は、原告が自動車を運転中、右折してセンターラインをこえ、対向車線に入るには、対向車線の交通の安全を確認したうえ、右折しなければならないのに、これを怠り、漫然右折した重大な過失により発生したもので、原告には民法第七〇九条の責任があり、被告の人身損害については、原告は事故車の保有者として自賠法第三条による責任がある。

(2) (予備的主張)

本件事故は、原告車の運転者斉藤政夫が運転中、右折してセンターラインをこえ、対向車線に入るには対向車線の交通の安全を確認し、対向車線を直進する車両の進行を妨害してはならない業務上の注意義務があるのに、これを怠り、漫然右折した重大な過失により発生したもので、運転者斉藤政夫は、当時、原告のため運転の業務を執行していたもので、原告の被用者であるから、原告には民法第七一五条により被告のすべての損害について賠償責任がある。

(三)  (損害)

(1) 物損 合計四三万六〇〇〇円

(イ) 被告車修繕費 四〇万円

(ロ) クレーン車使用料 三万六〇〇〇円

(2) 被告の受傷による損害 合計一九万〇七五七円

本件事故による全身打撲により、昭和五一年三月三日から同月一七日まで相馬郡小高町内の今野外科に通院治療し、その後、同年四月三〇日まで原町市内のイオンハウスジヤンボリで温浴治療をした。

(イ) 慰藉料 九万八〇〇〇円

被告は、一か月通院治療したので右金額が相当である。

(ロ) 治療費 三万五四二四円

(ハ) 休業補償費 五万七三三三円

年所得六八万八〇〇〇円の一か月分である。

(四)  よつて、被告は、原告に対し六二万六七五七円及びこれに対する昭和五一年三月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する原告の答弁

(一)  請求原因第一項の日時、場所で事故があつたことは認めるが、事故の態様については否認する。損害の発生については知らない。

(二)  請求原因第二項は否認する。原告車を運転していたのは原告の弟斉藤政夫であり、原告は同車両の助手席に同乗していたものであり、運転者ではないので民法第七〇九条の責任はない。

責任原因の予備的主張事実は否認する。

(三)  請求原因第三項は知らない。

第四証拠〔略〕

理由

第一  本訴について

一  (事故の発生)

昭和五一年二月二九日、福島県原町市雫字上江所在ドライブイン「どさんこ」前付近国道六号線上で被告運転の自動車と原告所有の自動車が衝突したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第四号証によれば、本件事故により原告車(福島五六ち五八七三号)がその左前フエンダーから前後ドアにかけて破損したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

二  (責任原因)

成立に争いのない甲第四、第五号証及び被告本人尋問(第二回)の結果によつて真正に成立したものと認められる乙第七号証の一ないし五並びに原告本人尋問、被告本人尋問(第二回)の各結果によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、東京方面から仙台方面に南北に走る国道六号線の原町市雫字上江七一番地の二ドライブイン「どさんこ」前付近路上であり、幅員約七・五メートルの舗装された平担な道路で、当時みぞれが降つていて路面は湿潤していた。交通規制は追越しのためのはみ出し禁止がなされているだけである。

原告の弟斉藤政夫が原告を助手席に同乗させ、原告車を運転して東京方面から仙台方面に向つて進行し、同日午後六時五〇分ころ、右側路外にあるドライブイン「どさんこ」で食事するため、その入口前の中央線寄りに一時停止し、対向して来た直進車両をやり過したのち、右折横断を開始しようとした際、約四〇メートル前方に対向直進して来る被告車を認めたが距離があるのでその接近前に右折横断できると考え、かつ、助手席の原告が「ゴー」の合図をしたこともあつて、斜めに右折横断を開始し、対向車線に進出したところ、被告運転の被告車(福島五五ほ二八四八号)が仙台方面から東京方面に向つて対向車線上を時速約五〇キロメートルの速度で進行して来て、被告進行車線の中央辺で被告車の左前部と原告車の左側面部とが接触した。被告は、右折しようとして停止している原告車を認めたけれども、自車の通過を待つてくれるものと考え、そのまま原告車の動静に十分な注意を払わず直進したもので、当時酒に酔つており、事故後四〇分経つた同日午後七時三〇分に行われた飲酒検知の結果では呼気一リツトルにつき〇・五ミリグラムの酒気を帯び、時刻の観念も鈍化していたもので、通報により警察官が臨場したときは、ドライブイン「どさんこ」内でふらふらしており、同日午後七時二五分から七時四〇分までの間行われた警察官の実況見分にも立ち合わず、同年四月一日相馬簡易裁判所で、酒気を帯び正常な運転ができないおそれがある状態で自動車を運転したとして罰金四万円に処せられた。以上の認定に反する甲第三号証、乙第八号証、証人斉藤政夫の証言、原告本人尋問の結果及び被告本人尋問(第一、二回)の結果中の各車両の進路、衝突地点その他事故の態様に関する部分は前示の各証拠に照らし措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

そうだとすれば、被告としてはそもそも自動車を運転すべきではなかつたのであるし、原告車の動静を注視し、それとの安全を確認して進行すべき注意義務があり、直進車だからといつて右折しようとしている原告車との安全を確認しなかつた過失はこれを免れることはできない。

もつとも、原告車の運転者斉藤政夫も道路を右折横断するのであるから、対向直進して来る被告車の通過を待つてから右折横断すべき注意義務があるのに、運転経験不足からとはいえ判断を誤り右注意義務を怠つた過失があり、これが本件事故発生の主因をなしていることは明らかであるが、そのことによつて被告の右過失を左右するものということはできない。したがつて、被告は民法第七〇九条により原告の損害を賠償する責任がある。

更に、過失の割合について判断するに、本件事故発生につき被告及び原告車の運転者斉藤政夫の双方に過失の認められることは先に認定したとおりであり、前示認定の諸事情を考慮すると双方の過失の割合は斉藤政夫において六、被告において四と認めるのが相当である。そして、斉藤政夫は原告の弟であり、原告を助手席に同乗させて原告所有の自動車を運転して本件事故を発生させたものであり、証人斉藤政夫の証言によると、原告を富岡町まで迎えに行つての帰途の事故であり、兄である原告のため原告車を運転したことが認められ、殊に、先に認定したように右折横断開始にあたり原告が運転者斉藤政夫に「ゴーの合図をし、右折開始を促したことは、原告自身の落度とも評価できないわけではない。しかしながら、右の諸事情を考慮しても、斉藤政夫の過失の割合六〇パーセントをそのまま原告側の過失として認めることは相当ではない。

三  (損害)

成立に争いのない甲第一、第二号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故によりその所有の原告車を前示認定のように破損されたこと、原告車は昭和五一年一月二四日購入した昭和五一年型の、まだ一か月くらいしか使用していない新車同様のものであつたこと、本件事故により原告車の心棒が曲り、修理しても安全性に問題があつたため同種の新車に買い替えたものであること、心棒の曲りのため下取車としての評価も低く三五万円とされ、新車購入代金一一二万円との差額七七万円を原告が負担したことが認められる。右認定に反する被告本人尋問(第一回)の結果は伝聞にすぎず、信用しない。してみると、単に修理したのみでは原告の損害は十分に回復されず、原告が修理をせずに新車を購入したことは相当であると認められ、右差額七七万円を被告に負担させるのを相当とする。

第二  反訴について

一  (責任原因)

原告の弟斉藤政夫が原告所有の自動車を運転して本件事故を発生させ、その事故発生につき斉藤政夫に過失があつたことは先に認定したとおりである。したがつて、原告自身が原告車を運転したことを前提とする被告の本位的主張のうち、物損に関して原告に民法第七〇九条の責任ありとする部分は失当である。

また、斉藤政夫が原告車を運転して兄である原告を富岡町まで迎えに行き、同人を助手席に同乗させて帰宅する途中、前示のような交通事故を発生させたことは先に認定したとおりであるが、斉藤政夫が原告の被用者であることを認めるに足る証拠はなく、原告に対し民法第七一五条の責任を求める予備的主張も理由がない。

しかし、原告が原告車を所有し、自己のため運行の用に供していたものであり、その運転者斉藤政夫に事故発生につき過失があつたことは認められるから、原告には、被告の人損につき自賠法第三条の責任があるということができる。

そして、被告にも過失の認められることは、先に認定したとおりであるから、被告の人損についての賠償額の算定につき前示の割合の過失を斟酌すべきことになる。

二  (損害)

(一)  慰藉料

成立に争いのない乙第三ないし第五号証及び被告本人尋問(第一回)の結果によれば、被告は本件事故により加療約一か月を要する全身打撲の傷害を受け、相馬郡小高町内の今野外科に昭和五一年三月三日から同月一七日まで通院し、その後、原町市内のイオンハウスジヤンボリで同年四月三〇日まで四〇日間温浴治療したことが認められるが、被告の前示過失を斟酌すると五万八八〇〇円を原告に負担させるのを相当とする。

(二)  治療費

前示証拠によると、被告は前示傷害の治療のため今野外科に七四二四円、イオンハウスジヤンボリに二万八〇〇〇円合計三万五四二四円を支出したことが認められるが、被告の前示過失を斟酌すると二万一二五四円を原告に負担させるのを相当とする。

(三)  休業補償費

前示証拠及び成立に争いのない乙第六号証によると、被告は農業を営む者であり、昭和五一年分の総所得は六八万八〇〇〇円であつたところ、前示通院及び温浴治療のため、一か月ばかり仕事ができず、右総所得の一二分の一である五万七三三三円の所得を得ることができなかつたことが認められるから、被告の前示過失を斟酌すると三万四四〇〇円を原告に負担させるのを相当とする。

第三  よつて、被告に対し原告が七七万円及びこれに対する本件事故の翌日である昭和五一年三月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求はすべて正当として認容し、反訴請求中、原告に対し、被告が一一万四四五四円及びこれに対する本件事故の翌日である昭和五一年三月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求は失当として棄却することとする。訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 草野安次)

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